空き家や空きスペースに付加価値を与え、“恩送り”を実践する「ものくり商事」

恩送りを実践し、豊かな心で穏やかに暮らせるためのサービスを提供する

──会社設立の経緯と沿革について教えてください。

早坂氏:高校を出て、デザインの専門学校に入りましたが、建築系のデザインだけで食べていくには時間がかかることや、結婚が早かったこともあり、不動産鑑定の勉強をし、不動産鑑定事務所に勤務。その後、財産コンサルティング会社に入社し、不動産ネットオークションの立ち上げに関わったり、土地の有効活用など不動産業者としての経験を積みました。一方、大学でコミュニティビジネスの授業があり、将来的には社会課題を解決するような仕事をしたいと思っていました。

2009年にはデザイン学校時代の仲間と一緒に、不動産コンサルティング事業を窓口にして(株)ものくりを立ち上げました。その後、相続などの相談にのっていると、「賃貸不動産の管理までやってくれないか?」と依頼されることがあり、宅建業を取得。“ものづくりで恩送りをする会社”というコンセプトのもと、2012年に(株)ものくり商事を設立しました。

──“恩送り”を実践するにはどのような考え方が大事なのでしょうか

早坂氏:相続等などを通じた不動産コンサルの仕事は、相続税対策など金銭的なメリットをいかに出すかがゴールのように受け取られがちですが、必ずしもゴールイコールお金ではありません。その過程でお客様の本音を引き出し、その方が大切にしたいことや想いに寄り添うことが大切です。

当社は旗標として、「豊心穏暮(おんしんおんぼ)」を掲げていますが、一人一人の恩送りの実践を通じて、お客様が「豊かな心で穏やかに暮らせる」ために必要なサービスを提供することを目指しています。従って、ただ貸せばいい、ただ売ればいいというように、目先の利益を追うのではなく、豊かな心で穏やかに暮す提案をすることが私たちの役目だと思っています。不動産で稼いでいますが普通の不動産屋ではありません(笑)

──事業内容について教えてください

早坂氏:事業は、売買・賃貸仲介、賃貸管理、不動産利活用提案、意匠設計の4つの柱を設け、不動産の相続などの相談にワンストップで対応できるようにしています。恩送りするためにはお客様といかに長くお付き合いできるかということが大事になるので、事業もコンサルティングから建築、賃貸管理と関係が続くよう展開してきました。案件としては、親族間の交渉や隣地とのもめごとの解決など、他社では解決しにくいものが多いことから紹介で仕事をいただくことが多いです。

──ONVOというレンタルスペースの運用をされています、内容について教えてください

早坂氏:最初は自宅開業をしましたが、2010年にJR浦和駅東口の5階建てビルの2階に事務所を借りました。そのうち、1階に入っていたトンカツ屋さんが閉店することになったので、3年限定でコミュニティショップをやらせてもらい、地元野菜を置いたり、スムージーを売ったりしたところ、地域の人に喜ばれました。それが空き家を活用してコミュニティに関わるビジネスのはじまりです。

その後、現在の場所に事務所を移したのですが、当時は10人前後しか社員がいないにもかかわらず66坪もあったので、建築デザインのモデルルームにしようと考えました。しかし、ビルの5階なのでお客様もほとんど来ません(笑)。そこで、レンタルスペース兼シェアオフィスとして貸し出すことにしました。2024年の6月にメインのテナントが退去したのをきっかけにリノベーションし、レンタルスペースとして会議やイベント、ワークショップやアート企画展など、1時間1200円~で利用できるようにしました。穏やかに暮らすためにいろいろな人が集う場所、という意味を込め、“ONVO(穏暮)サロン浦和”と名付けました。

 “ONVO STUDIO INAMACHI”は、収益物件としてご購入いただいた3階建ての建物です。1、2階は既にテナントが入っており、採算は十分取れていたのですが、当時制作拠点に困っているアーティストが多いという話を聞いていたので、空いていた3階について、アーティスト向け制作拠点及びレンタルスタジオとしての利活用を提案しました。幸い購入者が地域の若者支援に理解のある方だったので、現在、少し手を入れて活用しています。  “ONVO LABO与野”は、元は肉屋さんだったのですが、10年以上空き家のままでした。駅前なので、その間借りたいという問い合わせは結構あったようですが、飲食関係ばかり。お肉屋さんとして多くの店に卸していたことから、オーナーさんのお母様が競合をつくるのはいやだとずっと空き家のままにしておられました。ちょうどお母様が施設に入られたタイミングで、当社で活用させていただく提案をしました。1階には都市部での店舗拡大を検討していたラーメン屋さんに入ってもらい、2階は当初コミュニティスペースで今は学習塾が入っています。

──OONVOという名称の下、それぞれの施設は臨機応変に運営されているのですね

早坂氏:当然収支を考えなくてはならないので、いずれも複合利用できる可変性の高い利用プランにしています。時間当たりの貸しスペースとしても使え、オフィスとして月々の定額利用もできるようにし、スペース割を含め柔軟に対応しています。

また、入居したくなるようなデザインも重要です。最初にコミュニティショップを開いた場所は私たちが内装デザインしたので大家さんが喜んでくれて、原状回復なしでいいよと言ってくれました。デサインで付加価値を高めるのは得意ですし、内部にデザインチームがあるのは当社の強みです。

このように、ONVOの事業はあくまで空きスペースの利活用です。お客様と話をして思うのは、不動産はその人の人生そのものだということです。そして、不動産コンサルの仕事は、親族間の話など何十年にも渡るその方のしがらみをほどくことです。そのほどかれた土地をどう有効活用するか、空きスペースをどう利用するかという視点で生まれた事業がONVOであり、
次に紹介する「チャリン」なのです。

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