地域密着の都市ガス会社の強みを生かした空き家問題への挑戦

都市ガス会社が空き家問題を考え始める

──都市ガス会社が住環境の問題や空き家問題に取り組みはじめた背景や経緯を教えてください。

(横田氏)
都市ガス会社は、地域とともに生きる会社です。その地域が2010年頃から高齢化が一気に進み、買物難民などという言葉も聞かれるようになりました。地域とともに生きる会社としてなにかできないか、そのような思いではじめたのが便利屋事業でした。買い物代行や庭木の剪定など、地域のお困りごとにはできるだけお力になれるように頑張っていました。

しかし、どうしても人はいなくなってしまう。
そして、人はいなくなるが、建物は残り続ける。
ということに気が付いたのです。

ソフトとしての便利屋事業だけでなく、不動産を扱える事業を行われければ、地域を守れない。
しかし、私たちはガス会社なので、不動産を扱える人材はいませんでした。

そこで、人材募集を行い、増田の入社に至るのです。

──田さんは中途入社なのですね?それまでのお仕事や入社する経緯などをお話いただけますか?

(増田氏)
以前は、建築や不動産に関わる営業の仕事をしていました。業界としても歩合制の会社が多く、私も歩合制で働いていました。案件をとればとるほど給料が増える世界です。そこには「地域の事を考える」という心の余裕はなく、ひたすらに営業をしていました。

日高都市ガスにお世話になる際に面接も行ったのですが、今まで考えてもいなかったことを言われたのです。「地域のために、建築や不動産の仕事をして欲しい」と。その言葉に感銘を受けて、当社にお世話になることに決めました。自分にとっては、かなり大きな決断でした。

今は、久喜市から電車通勤しており、片道1時間50分程かかりますが、もう気にならなくなりました。

増田氏

都市ガス会社が行う空き家対策とは

──日高都市ガスが行う空き家対策の具体的な内容を教えてください

(増田氏)
先ほどもお話しましたが、人がいなくなった後に建物が残る。このことは私たちにとっては大きな危機感としてありますが、まずはこの地域に住み続けていただきたい、という気持ちが先にあります。

ですから、生活する上での様々なお悩みにお応えできるような便利屋業は今でも行っています。住んでいれば、リフォームやハウスクリーニングの必要が生じるでしょう。草刈りや剪定も行います。

問題は住み手がいない空き家です。ここを何とかしたかった。そこで、「日本空き家サポート(JVHS)」と提携して空き家管理サービスを開始しました。それとともに、宅地建物取引業免許も取得しました。人が住まなくなった空き家については、空き家管理サービスを使っていただき、売却や賃貸のご意向がある場合には、弊社で仲介を行います。

これにより、ワンストップでトータルサービスをご提供できるようになりました。

日高都市ガスHPより

──空き家管理サービスはどの程度活用されているのでしょう。

(増田氏)
年間10件程度のご利用があります。プランが3つ用意されていますが、スタンダードプランのご利用がほとんどです。利用者はほとんどが市外居住者で海外にお住まいの方も多くいらっしゃいます。空き家管理作業の動画がクラウドにアップされ、お客様はそれをみることができるため、海外にお住まいの方は便利かと思います。

(小沢:タガヤス)

空き家管理サービスが日本で始まったころに、その実態を調査したことがあるのですが、当時は5,000円/月でも、料金が高くて利用者がなかなか増えない状況だったのです。やはり空き家問題というもの少しずつ地域に浸透してきているのを感じます。

もっとお使いいただきたいのですが、そのためには人を増やさなければならない。空き家管理は、日高市に関わりのある方から個人の財産管理をお任せいただく大切な仕事なため、私が責任を持ってやりたいという気持ちもあり、なかなか難しいところです…

日高都市ガスによる宅建免許証の前で。左:横田氏 右:増田氏

都市ガス会社だからできる強み

-都市ガス会社さんは、御社のようなサービスを行っているところが多いのでしょうか?

(横田氏)
都市ガス会社は自分達が共存共栄する地域が概ね決まっているので、まさに地域とともにある業態です。ですので、都市ガス供給だけでなく、なんらかの生活サポートサービスを行っているケースが見られます。空き家管理についても徐々に注目されていて、他地域の同業者からたくさんの問合せを受けています。これから増えていくのではないかと思ってます。

-都市ガス会社であることの強みまたは弱みを教えてください。

(横田氏、増田氏両名のお話を要約)
日高都市ガスでは、不動産事業を切り出して子会社化しているわけではなく、一つの部署としているので、便利者事業のスタッフや他部署との連携がとりやすい。これは都市ガス会社であるか否かにかかわらず、当社の強みと言えるでしょう。

都市ガス会社である強みはいくつかあります。まず、地域にお住まいの皆さまは、ほとんどがお客様ということです。あるお宅がお客様であれば、その両隣も必ずお客様なのです。例えば、あるお宅が空き家になったとしても、そのお隣は弊社のお客様なのでお話しをお聞きすることができます。こういった環境はなかなかないかと思います。

また、引っ越しをされる場合には、ガスを止める旨の連絡をお客様からいただきます。その連絡はもちろんガス事業部が受けるのですが、その後にこちらにひきついでもらいます。引っ越しなどのタイミングは放置空き家になるタイミングの一つでもあり、そのタイミングでガス事業から不動産事業に引き継ぐことにより、地域の放置空き家化を防ぐことができるのです。事業としても、引っ越しによりガス事業のお客様ではなくなったとしても、その後は不動産事業のお客様としてお付き合いを継続することができるのです。このタイミングは、電気や水道、通信などでも同じですが、地域密着型で民間の機動力で対応できるのは都市ガスだけではないと思っています。

都市ガス会社だから、という弱みは特に感じません。しかし、当初は不動産のことを本当にお願いしても大丈夫なの? 専門知識はあるの? と不安に思われる方もいらっしゃいました。それは無理もない話です。そのような不安は時間をかけていけば解消できました。弊社の代表から「その行動は地域のためになっているか?」と常に問いかけられています。

前職ではこんな思いで仕事をしたことがありませんでした。不動産事業というものは、お客様との接点は「点」であることが多いのですが、現在は不動産事業を行いながら、地域の皆さまと常に向き合って仕事をしています。言い方を変えれば「逃げられない」ということです(笑)。気を引きしめて毎日を過ごしています。

タガヤスとの出会い、地域の空き家問題への意識向上に取り組む

-タガヤスに興味を持った経緯を教えてください

(横田氏)
空き家問題に取り組み始めてから、いろいろと試行錯誤していました。どうしたら空き家になることを防げるのか、空き家になったとしても地域の環境に悪影響を及ぼさないようにできるのか。結局は所有者の方にそのような意識を持っていただくことが必要になるのですが、意識の高い方からはどんどん問合せをいただきます。セミナーなどを開催すればお集まりいただけるでしょう。

しかし、普段意識を持っていない方にどうしたらこの思いを伝えることができるのかを悩み、いろいろと調べていたところ、タガヤスさんの空き家スゴロクを見つけたのです。空き家問題に興味がなくても、スゴロクで遊びながら学び、気づきを持ってもらえるかもしれません。そう思ったら行動せずにはいられない性分なので、タガヤスさんの事務所までお伺いしたのです。

(小沢:タガヤス)

ちょうど、私がその時に事務所を留守にしており、受付の者から連絡をもらったのですが、アポがないところにダメもとでお越しになるお客様は初めてだったので、社に戻るまでずっと気になっていました。受付に置いていかれた資料を拝見し、よくわからない状態ではありましたが、とにかく連絡をとってみようとこちらからご連絡したのを覚えています(笑)。

-空き家スゴロクワークショップを経験された感想をお聞かせください。

文化新聞2025年5月8日号(文化新聞(株)刊)一面に掲載

(増田氏)
正直にいうと、確かに面白そうだなとは思っていましたが、それほど期待はしていませんでした。しかし、はじまってみると、空き家の所有者ではない一般の地域の方が大盛り上がりで、予想以上に楽しんでいただけている姿を目の当たりにして驚きました。

あれは、ファシリテーターの役割が重要ですね。また、楽しむだけでなく、小沢さんのお話などもあり、きちんと空き家問題について考える機会となっており、空き家予備軍と言われる方達も、あのようなワークショップを通して地域の中で意識の芽生えがあると素晴らしいことだな思いました。

(横田氏)
開催できて本当に良かったと思っています。空き家カルタワークショップも行いたかったのですがとても残念です(実施する予定だったが、タガヤス側でスケジュールがあわず、今回は断念した:小沢)。

今後の展開について

-現在動いている新しい取組みや今後の展望についてお聞かせください。

(横田氏、増田氏両名のお話を要約)
日高都市ガスは、幸いなことに都市ガス事業という比較的安定した収益の基盤があるので、利益の薄い事業であったとしても、地域に貢献できる取組みにはチャレンジできる環境にあります。弊社の代表からも、常に「地域のためになっているかを考えろ」と言われています。日高市は、遠足の聖地とも言われていますが、実は巾着田など、地域資源がたくさんあります。しかし、宿泊施設が一つもないのです。皆さん日帰りで帰ってしまう。もっと日高市を知っていただきたいし、訪れていただきたい。そのような思いから移住体験型の宿泊事業を検討しています。

空き家対策については、日高市と連携しながらも、社会福祉協議会ともうまく連携し、より地域に深く根差した取組みにしていきたいと考えています。弊社はガス会社としては小さな会社です。ですが、地域のためにできることはたくさんあると思っています。これからも地域すべてのお客様の快適な生活に貢献できるような取組みを行っていきます。

日高都市ガス本社

都市ガスという業態は、地域の生活インフラを支えるという地域にとって極めて重要や役割を担っていますが、それだけに、地域コミュニティと密接な関係にあり、常に地域とともにあることを改めて認識できました。また、都市ガスという業態は、空き家問題だけでなく様々な地域課題に対して担い手となりうることも感じました。そしてなによりも、今回取材にご対応いただいた横田氏、増田氏の人間としての魅力をお伝えしたい、そのような思いで原稿を書いております。

アキヤジンは、事業の事例紹介ではなく、空き家に関わる「人」にフォーカスしています。

まさに、横田氏、増田氏は、アキヤジンであると感じました。(小沢)

(取材・写真・記事:小沢理市郎(タガヤス代表理事))

横田敬二(よこたけいじ)氏

(横田氏からご提供頂いたプロフィール文章をそのまま掲載しています)

日高都市ガス株式会社 経営企画室室長

長崎県島原市出身 市内の高校を卒業後、(生徒会長でした)埼玉県飯能市の駿河台大学へ進学、卒業を経て1998年4月日高都市ガス入社 

中学3年時に雲仙普賢岳噴火の災害を経験、典型的な田舎モノで、都会にあこがれ上京を目指すが、埼玉へ。

入社後の3年間は、ガスサービス業務へ従事、その後、国のエネルギー施策、都市ガスの天然ガス導入による熱量変更作業で、関東を2年間、渡り歩く。その後、日高へ戻り、再びガスサービス、リフォームサービスへ携わるさなか、地域の高齢化が社会問題化。課題解決の一助と地域と会社の存続をかける思いで、2011年の震災の年に、便利屋事業を立ち上げ、便利屋の店長になりました!地域のガス屋さんが運営する便利屋として地域のお困りごと解決に奔走する日々が続き、2016年には、小売り電力販売事業立ち上げに携わり、2020年空き家管理、不動産事業立ち上げに携わりながら・・・現在に至る。

19才から埼玉県飯能市に来て、23才からの26年間を日高市で仕事をさせて頂いています。気づけば、人生の大半をこちらで過ごしています。若かりし頃、新人だった私は、地域の皆様に育てていただきました。その方々が、高齢になり、地域の課題としてさまざまなことが起きています。

少しでも、恩返しができればと思うばかりです。人は、十人十色と言いますが、地域の人と住居建物に対する思いも住人十色・・・いろいろあるからおもしろい・・最近では、そう感じることが多くなりました。(年を取ったせいですね)

生みの故郷である長崎県島原市と育ての故郷である埼玉県日高市へ、これからも地元、地域への思いをはせながら歩んでいきたいと思います。

増田貴裕(ますだたかひろ)氏
日高都市ガス株式会社 経営企画室 兼 広報
専任宅地建物取引士

不動産会社に勤務し、戸建ての仲介や土地取引に2年間従事。その後ハウスメーカーに転職し、4年目に全営業マンの中で年間成績トップを収める。

6年目の29歳で住宅展示場店長、営業部係長に昇進。

個人プレイヤーとしてご契約を頂きながら、部下のマネージメント業務もして参りました。

35歳の時にまた新たなチャレンジをしたいという強い気持ちが湧き、エネルギー会社で不動産事業を始めるというお話を頂き現在の日高都市ガス株式会社に転職。

現在は経営企画室兼広報に所属しており、不動産売買仲介や買取り再販、不動産事業の顧客様をリフォームや建物維持管理・既存のエネルギー事業へ繋ぐパイプ役を行い、

兼務で広報・PRもしており、地域社会問題解決の一環として空き家管理事業もあわせて行っております。