アキヤジン特別企画 我がまちさいたまの空き家まちづくりを考える

日時:2025年10月7日(火)15:00~(概ね2時間)

場所:りそなコエドテラス 3階


参加者

一般社団法人タガヤス  

 代表理事:小沢理市郎(合同会社鍬型研究所代表社員、地域デザインラボさいたまシニアアドバイザー)

 企画デザイン担当:中村晋也(ヤギサワベース)

株式会社地域デザインラボさいたま 

 代表取締役社長 園田 孝文

 地域共創ソリューション部 大山鉄平(グループリーダー)

埼玉県 都市整備部住宅課 企画担当

 主幹 天野 譲  

 主査 倉田 康夫   

埼玉県 都市整備部 建築安全課

 主幹 源関 英司 

 主査 中谷 高志 


司会    

株式会社地域デザインラボさいたま
 地域共創ソリューション部 八木 奈央

(タガヤス 小沢)
埼玉県に住み替えてから20年近くになりますが、埼玉というまちには、あまり「まちづくり」というイメージがありませんでした。しかし、しばらく生活をすると、多くの方達が地道ながらも様々な取組みをされていることがわかり始めました。

このような皆さまこそが、地域社会において拍手を贈られるべき方々だと思い、是非とも多くの方々に知ってもらいたい。そして、埼玉というまちをまちづくりのまちとして知ってもらいたい。そのような思いで「アキヤジン」プロジェクトを始めました。

アキヤジンホームページ TOP画面

本日は、その特別編として、アキヤジンのパートナーである株式会社地域デザインラボさいたま(以降;ラボたま)の皆さんと、埼玉県住宅課、建築安全課の皆さまにお集まりいただき、私たち3者が取り組んでいる空き家問題について改めて見つめ直していきたいと思います。

(司会 ラボたま八木)
それでは、我がまちさいたまの空き家問題を考える座談会を開催したいと思います。
まずはそれぞれの想いと活動の共有をしていきたいと思いますが、まずは主催者であるタガヤスさんからお願いします。

株式会社地域デザインラボさいたま 地域共創ソリューション部 八木 奈央

タガヤス設立とアキヤジン立上げの背景とは

(タガヤス小沢)
まず、私たちタガヤスという組織の特徴としては、会員全員がそれぞれ本業を持っており、タガヤスへは大人の部活動のようなノリで集まりスタートしています。
そもそもの目的が空き家問題に特化しているわけではなく、地域の皆さまの住環境が少しでも良くなるように、我々が鍬となって地域を耕していくというものですが、目下の課題が空き家問題であることから現在はそれを中心に取り組んでいます。
ですから、基本的に私たちの活動から大きな利益を得ようという発想はそもそもなく、民間事業者の皆さまが手を付けられるところは基本的にお任せをするスタンスです。

民間事業者の皆さまが空き家問題に対して取り組みやすくなるように、空き家所有者がマーケットに物件を積極的に供給するような発意を生み出す取組み行い、マーケットを大きくしようとしています。
また、家というものがこの世に「おぎゃー」と生まれてから、人間の管理の仕方や都合により、「外部不経済だ」と指をさされないような取組みも行っています。人間の需要により建てられた家は、人間が最後まで責任を持って管理しましょう、という社会をつくれたら、と思っています。

一般社団法人タガヤス 代表理事/小沢理市郎(合同会社鍬型研究所代表社員、地域デザインラボさいたまシニアアドバイザー)

(タガヤス中村)
西東京市でヤギサワベースという駄菓子屋を営みながらデザイナーをしています。

東日本大震災をきっかけに、西東京市に移り住んだのですが、デザイナーだけでは地域との接点を持つことができないと考え、昔からやってみたかった駄菓子屋にチャレンジしてみました。駄菓子屋というのは主に子供たちの放課後時間にオープンするので、コアタイム自体は短いのですが、その中で地域との接点を数多く得ることができました。

いろいろな活動を通して、タガヤス代表の小沢と知り合うことになり、今は成功体験で得た駄菓子屋による地域との接点づくりというコンテンツを持って、空き家問題に一緒に取組んでいます。

一般社団法人タガヤス 企画デザイン担当:中村晋也(ヤギサワベース)

なぜラボたまが空き家問題に取り組むのか! 渋沢栄一の精神と徹底した現場調査

(ラボたま 園田)
地域デザインラボさいたまは、2021年10月に埼玉りそな銀行の子会社として設立され、この10月でちょうど設立4年となりました。
これからの人口世帯数減少社会において、きちんと地域課題に向き合って取り組んでいくという目的を持って設立されました。
本日の会場となっているりそな コエドテラスは、銀行の建物ですが、運営をラボたまが請け負っております。
4年間で500件ほどの案件にチャレンジし、90件ほどは具現化までたどり着いたのですが、400件程度は失敗もあり、というところですが、失敗を恐れることなくチャレンジし続ける精神を持ってワンチームで取り組んでいます。
空き家課題は、ラボたまだけではなく銀行としても大きな地域の社会問題として捉えて取り組んでいるところです。
やはり、大元の精神というものには渋沢栄一の考え方があります。埼玉りそな銀行はいろいろな銀行が集まり、埼玉銀行ができて今の埼玉りそな銀行になったわけですが、渋沢栄一の精神として「道徳経済合一説」というものがあります。これは道徳と経済は共に両立し、不可分のものであるという思想です。ただ利潤を追求するだけが経済ではなく、世の中の役に立つという精神があってはじめて経済活動であるという精神。
そのような精神がラボたまという会社の源流となっています。

株式会社地域デザインラボさいたま 代表取締役社長 園田 孝文

(ラボたま大山)
ラボたまが空き家課題に取り組むようになった背景についてお話できればと思います。

空き家課題とのかかわりですが、2021年にりそなグループ全体の社内ビジネスアイデアコンテストがあり、空き家課題を解決したいというアイデアでエントリーし、そこで受賞した後にラボたまに入社したのが、実は今回司会をしている八木です。ラボたまでは、八木の取組みをきっかけとして、空き家課題への取り組みを始めました。
私も転職組で八木も支店の人間でしたので、空き家課題に関してはほぼ素人で、私自信も「特定空家」という言葉も当初は知りませんでした。(笑)

とにかく埼玉県内の各市町村の現状を知る必要があるという思いから、63ある市町村のうち、半数以上の市町村を回らせていただいて、市町村によってどのような違いがあるのか、現場ではどのようなことに困っているのか、という現状を把握するところからスタートしました。空き家課題については、市町村によっても捉え方に温度差があり、課題の内容も地域性があるため、とても難しい社会問題だな、と改めて実感しました。今思うと、この訪問活動によって、現場のニーズ・課題を肌身で感じておけたことが、後々非常に役に立ったと思っています。

株式会社地域デザインラボさいたま 地域共創ソリューション部 大山鉄平(グループリーダー)

(司会 八木)
それでは、埼玉県の建築安全課、住宅課それぞれが持つ役割機能や空き家対策への取組みなどをご紹介いただけますか?

建築安全課 源関主幹
埼玉県の空き家対策では、大きくわけて、流通や利活用を担当する住宅課と、未然予防や除却の出口を担当する建築安全課により対策を進めています。

独自の取組みとして、埼玉県空き家・所有者不明土地対策連絡会議を設立しています。空き家に関する関係課や市町村の担当課、関係団体の方々にご参画いただいています。建築安全課では、活用や移住のように夢を語れるような取組みではなく、空き家になる前の予防や、空き家になってしまった場合の改善や除却の取組みを担っています。

埼玉県 都市整備部 建築安全課 主幹 源関 英司 

建築安全課 中谷主査
流通や利活用ができない管理不全空家や特定空家などをどのように出口に持っていくかというある意味シビアな機能を担っています。とても難しい仕事ではあるが、それを通して地域の住環境をできるだけ良くしていく役割を担っていると考えています。

埼玉県 都市整備部 建築安全課 主査 中谷 高志

住宅課 天野主幹
私たちは、「住宅課」というセクションになりますが、主にセーフティネットの機能を担っています。埼玉県も高度経済成長期に住宅が一機に増え、住宅が飽和している状態で、既存住宅をどのように流通させていくか、そのような観点から空き家についても住宅行政として捉えています。

埼玉県 都市整備部住宅課 企画担当 主幹 天野 譲 

住宅課 倉田主査
私は、以前建築安全課におりまして、その後に住宅課に配属されたのですが、空き家特措法(空家等対策の推進に関する特別措置法)が制定されたころから、多くの市町村担当課の皆さまや民間事業者の皆さまと意見交換しながら、空き家特措法に基づいたたくさんのマニュアルづくりなどを行ってきました。建築安全課の仕事は、かなり難しい側面はありますが、とても重要な機能を担っていると考えています。

埼玉県 都市整備部住宅課 企画担当 主査 倉田 康夫

(司会 ラボたま八木)
皆さまとは普段からご一緒する機会が多いのですが、改めて皆さまが担っている役割や空き家対策への思い・取組みをお聞きするとお互いの理解が深まりますね。特に建築安全課さんのお仕事は、かなり難しいお仕事だと感じましたが、それがあって県民の住環境が守られるということも改めて認識できました。ありがとうございます。

続いてですが、今回、タガヤスさんの主催で三者が集まることなりましたが、それぞれの出会いのきっかけについて読者の皆さまにご紹介いただけますか?

(ラボたま 大山)
小沢さんとの出会いは、ラボたまが国土交通省の空き家対策モデル事業にエントリーしようとしていた際、はじめての経験だったのでいろいろと試行錯誤している時に、あるつながりの中から小沢さんを紹介されて、声をかけたというのが切欠だったと思います。

(タガヤス小沢)
そうでしたね。ちょうど私が前職を退任して会社をつくった一年目で、大変ありがたいお話でした。いろいろご相談をいただく中で、ラボたまという組織にとても魅力を感じまして、一緒にいろいろやりましょうよ、というお声がけを私の方からもさせていただき、今に至るという感じでしょうか。私は金融機関と言っても研究所の方に所属していたのですが、ラボたまはプロパーの方も今は多くいらっしゃいますが、やはり銀行本体に席を置く方達が多くいらっしゃるので、同じものを見ていても見方や物事の進め方に違いを感じていました。それが私のとって足りないもののような気がしていて、アドバイザーという立場ではありますが、実は、私にとっても良い勉強をさせていただいています。

(司会 八木)
今、ラボたまとタガヤスが連携している事業はどんなものがありますか?

(ラボたま 大山)
昨年度の国土交通省の空き家対策モデル事業の中で、8市町村を対象に空き家予備軍への対策を行うモデル事業を行っていたのですが、そこではデータを使って空き家予備軍を抽出し、啓発のアプローチをする取組みを行っておりました。その一環として、空き家課題への意識啓発のワークショップを8地域9回実施しました。

その時にタガヤスの空き家スゴロクワークショップを開催してもらったのが連携としては初めのプロジェクトでしたね。

(司会 八木)
埼玉県が空き家対策を本格的に力を入れ始めたのはいつ頃になりますか?

(住宅課 倉田主査)
空き家特措法が制定された少し前からでしょうか。世の中として、空き家が社会問題として取り上げられていたころであり、県庁内でも問題意識を持った人間によるプロジェクトチームのようなものが検討を進めており、それを引き継ぐ形で建築安全課が担当するようになったと記憶しています。

当時は埼玉県空き家対策連絡会議を立ち上げて、空き家特措法が施行されるかされないかのタイミングだったので、情報も限られている中で、施策としてどう動くかということを考えながら、県として市町村をどう支援していくか、ということを考えていました。

当時は、空き家という定義が市町村によっても捉え方がバラバラで、担当課の種類もバラバラの状態でしたので、空き家対策計画の策定マニュアルなど、たくさんのマニュアルをつくりました。

(司会 ラボたま八木)
先ほど、ラボたまとの連携案件で、空き家スゴロクワークショップという話がでましたが、タガヤスさんは空き家スゴロクや空き家カルタを開発されているかと思います。それを少しご紹介いただけますか?

(タガヤス 小沢)
これまでも、空き家に限らず住生活に関する意識啓発については、住教育として様々なセミナーなどが行われてきましたが、集まっていただけるのは、意識の高い市民の方や業界の方達で、本当の情報を届けたい方はなかなか集まっていただけませんでした。

やはり、住まいのことというのは、日常のことですので、改めて日常を見つめ直して問題を意識し、行動を行うことはハードルが高いものです。そこで、どうしたら情報を届けたい方達に届けることができるかを考えた時に、まっ先に浮かんだのが、「遊び」です。そして、子どもが参加することにより、大人たちも必然的に参加すること、です。

空き家問題を学ぼう、ではなく、遊びましょうのコンテンツがたまたま空き家問題であったというイメージです。

そこで、まずは空き家問題をスゴロク化することを考えました。私は、長年のクセで物事をロジカルに考えてしまうので、参加者に考えて欲しい空き家の問題と、その問題から派生する次の問題をすべてイエス、ノー方式で接続して原案を作成したのですが、企画・デザイン担当の中村がスゴロクの形に作り替えてくれたのです。はじめ見た時には、「これだ!デザインの力は素晴らしい!」と感動したのですが、それと同時に沸々と湧き上がるものがありました。私にはどうしても参加者全員で考えて議論して欲しい空き家問題がいくつかあって、それがこのスゴロクの醍醐味であり目的でもあったので、サイコロで出た目によりランダムでマスを踏んでいくことがどうしても許せなかったのです。そこは後からいろいろと工夫をしながら現在の形に仕上がりました。子供からお年寄りまで、空き家の知識がなくとも誰でも楽しく遊びながら学べるものになりました。

(タガヤス 中村)
私がスゴロクの形に作り直した時は、小沢さんはご立腹でしたよね(笑)。しかし、その後、うまくカタチになってよかったです。

私は空き家カルタというものを作成しました。空き家カルタはその名の通り、空き家をテーマとしたカルタになっています。小さな子供たちが遊べるように、楽しいイラストが描かれていますが、読み札側は、わかりやすいの中に、それなりに専門用語が入っています。例えば「特定空家」などです。

子供たちは、もちろんそんな言葉は知らないので、後ろにいる親に聞くのです。ほとんどの親は「特定空家」という言葉を初めて聞くので答えられない。そこで解説bookがついていて、それを見て子供に教えてあげるのです。子供たちの遊びを通して、実は大人たちの学びの場となっています。家に帰っても、自然と空き家の話題ができるようになります。

ワークショップとしては、カルタだけでなく、空き家がたくさんある架空の街をイラストで表現して、子供たちが自由な発想で空き家をカフェにしたりおもちゃ屋さんにしたりと、街を元気にしていくイベントなども行っています。できれば、開催地域をスチールなどで立体的に再現して、同じようなワークショップができないかな、とも考えています。

(司会 ラボたま八木)
ありがとうございます。これまで皆さまの役割や現在の取組み内容などについてお話いただきました。改めてお聞きするといろいろは発見がありますね。 では、いよいよ埼玉県内の空き家問題について皆さまのこれまでの経験をもとに深堀した上で、官民連携でどのような取組みができるのかについて意見交換できればと思います。

埼玉県の空き家問題の捉え方やこれから求められる官民連携の空き家対策、まちづくりの議論に入る前に、改めてそれぞれが担う機能や、空き家問題に取り組む背景などをお話いただき、参加者での共有を図りました。

埼玉県庁では、流通や利活用、セーフティネット活用の視点からの住宅課、予防や外部不経済対策の視点からの建築安全課の2つの担当課があります。

空き家問題、空き家対策と言っても従来型の庁内セクションが従来の機能をそのままにして空き家問題を網羅できるわけでなく、様々な側面で捉える必要があるに加え、地域性もあります。埼玉県という多くの市町村が含まれる県施策として、空き家問題を捉えて取組むことがとても難しいテーマであるこということが良く理解できました。

また、それぞれのスタンスをそれぞれが理解しあう機会というものは、なかなかないものなので、今後の連携を検討するにあたっての大切な機会となりました。

【後編】では、いよいよ、埼玉県の空き家問題の捉え方や今後の官民連携による取組みについて、議論の内容をご紹介いたします。ご期待ください。

一般社団法人タガヤス 代表理事 小沢理市郎