“つながる たのしむ ひろがる” 川越市「ちゃぶだい」とは

「まちづくりキャンプ」で出会った二人が、川越でまちづくりを始める

──まずは、お二人の自己紹介と出会ったいきさつなどをお聞かせください。

田中:仕事は都内でリノベーション会社を運営しています。まちづくりに興味があり、自宅が川越近郊という事もあった事から2016年に川越市が主催したエリアリノベーションイベント「まちづくりキャンプ」に参加しました。その時、同じチームだったのが西村です。
川越では、同じまちづくりキャンプきっかけでスタートした株式会社80%というまちづくり会社にも参画しています。また川越のその他の活動としては「Cleanup & Coffee Club(CCC)」の活動を行っています。CCCでは、まちのゴミ拾い清掃を行った後に、コーヒーを飲んでコミュニティを深める活動を行っています。

田中明裕(たなかあきひろ)氏

西村:もともとはソフトバンクで11年ほど経営企画の仕事をしていました。その間も市民大学の立ち上げや様々なプロジェクトに関わってきました。その後、思うところがあり退職し、気ままに様々なことに挑戦しようと考えていたところ、川越市でまちづくりキャンプが開催されると聞き、もともと狭山市出身で高校が川越だったので、知りあいの縁もあり参加することになりました。
ちゃぶだい以外では、「株式会社おとなり」醸造所を持たないクラフトビールの会社のほか、メキシコ関連事業や地方の空き家再生などを扱う株式会社hasも立ち上げています。

西村拓也(にしむらたくや)氏

──「ちゃぶだい」の舞台となる古民家に出会ったきっかけをおしえてください。

田中:まちづくりキャンプでは、具体的な物件をスタディの対象として企画を練り、そのオーナーに提案していくのですが、私たちが担当した物件は、諸事情もあり残念ながらNGとなりました。
その後、川越の中にゲストハウスをつくるとしたら、地域の方々はどのようなゲストハウスを期待されるのだろうと考え、地域の方々と一緒にワークショップを繰り返し行っていったのです。
そのワークショップの参加者の方から繋いでいただいたのが、このちゃぶだいとなった古民家だったのです。

ちゃぶだい外観
小さいちゃぶ台をそのまま利用した看板。オリジナルのメガネフレームを制作する澤口眼鏡舎も併設。
ちゃぶだい・パンフレット

地域とともに創り始めた「ちゃぶだい」 魅力ある空間には魅力ある人たちが集まる

田中:ちゃぶだいとの出会いは、地域の方々からいただいたご縁でした。ちゃぶだいの創りはじめは、地域の皆さまが参加するDIYワークショップでした。左官職人や大工などのプロの職人さんを講師に招き、職人の技を体験するワークショップを繰り返しながら、少しずつちゃぶだいを創り始めました。DIYのワークショップは、いろいろと費用がかかるため、少しだけ参加費をいただいたのですが、本当にたくさんの方々が参加され、喜んでいただきました。 この取組みの地域との一体感を深められたと思います。

西村:私は主にちゃぶだいの企画運営を行っているのですが、たくさんの魅力ある人たちが集まってくれます。魅力ある人たちが集まると「あの人がいるから」と、また魅力ある人たちが集まってくれます。そうすると、このちゃぶだいが人の魅力により益々魅力ある空間になっていくのを感じるのです。
ただし、少し不安もあります。「あの人がいるから」と集まっていただいているのですが、「あの人」が仮にいなくなったらどうなるのだろうと。今は、その人の魅力や、ここの居たという記憶を、どのようにこの場所に落とし込んでいけるのかを考えています。

小沢:人と住まいの空間の関係、人と空間の関係、関わり方の妙ですね。魅力ある空間と魅力ある人は、それぞれが独立したものではなく、必ず重なりあるところがある。家と地域との関係もそうですね。その境界線をきちんと引かずに、うまくゆるやかにぼかせられるかが大切なのかもしれませんね。

ちゃぶ台のラウンジでくつろぐ利用者。写真:ちゃぶだい提供

西村:また、ちゃぶだいでは、ゲストハウス、カフェ、バーを併設しています。地域の人たちに使ってもらえるように空間を開放したりもしています。川越で居酒屋などを新規出店したい人が、ちゃぶだいのバータイムを活用し、接客やオペレーションを覚えた後、実際に新規出店をしているケースもあります。ちゃぶだいは、ゲストハウス、カフェ、バーを併設する川越の玄関口としての位置づけではありますが、このように新しく商売をしたい方達を後押しすることもできるようになりました。

カフェ&バー 
ゲストハウス、個室(1〜3名)。床の間や格子付の窓、歴史ある装飾と梁まで見れる高い天井など、開放感と温もりを感じさせます。
個室(定員1~4名)のお部屋

小沢:ここ数年、社会的インパクト不動産という言葉をよく耳にします。これば、地域社会に対して、経済的価値だけでなく、金銭には換算しにくいポジティブなインパクトを与え続ける不動産を示していますが、まさにちゃぶだいは社会的インパクト不動産と言えるのかもしれませんね。

──DIY以外でも改修が必要だったと思いますが、資金調達はどのようにされたのですか?

田中:ちゃぶだいでは、私の会社でマスターリースをして、株式会社ちゃぶだいにサブリースをしているスキームになります。イニシャルコストはどうしてもかかってしまうので、マスターリースに入っている私の会社で資金調達をしています。 銀行からの借入や、埼玉縣信用金庫のまちづくりファンドも活用しています。

──ちゃぶだいの運営が開始されて以降、行政や地域との関係はいかがですか?

西村:もともとの私たちの出会いが、市が主催するまちづくりキャンプでしたが、運営を開始している現在では、特に行政と密な連携をとっているわけではありません。
地域の皆さまとは、ちゃぶだいの運営を開始するにあたり、地域への説明会を行ったのですが、「火を使って欲しくない」と言ったお声をいただきましたので、ちゃぶだいではすべてIHにしています。また、川越祭りでは、市街地を山車が練り歩くのですが、ちょうどここが町内の会所となっており、引き続き使わせて欲しいというお声もいただきましたので、その日はちゃぶだいを祭りに使っていただくようにしています。

店内にはこの古民家に残された川越まつりのポスターが飾られている

今後の展望などがあればお聞かせください。

田中&西村:ちゃぶだいは、ゲストハウス、カフェ&バー併設の川越市の玄関口ですが、川越にはもっとこんな場所があったらいいのに、こんな人達にも使ってもらえるものがあったらいいな、というものがたくさんあります。それらを、ちゃぶだいの周りに創っていきたいと思っています。
例えば、川越市は観光のまちではありますが、観光で訪れて、本当にこのまちが好きになったら最終的には「住む」ことになると思いますので、シェアハウスもスタートしました。 また、もっと家族単位でゆったりと川越を楽しんで欲しいという思いから、蔵をリノベーションした一棟貸しも始める予定です。
このように、ちゃぶだい起点となって、もっと川越での日常が豊かになるような取組みをしていけたらと思っています。

今回は、地域デザインラボさいたまからいただいたご縁により取材をさせていただきました。

「ちゃぶだい」は以前からずっと気になっておりました。素敵な空間もそうなのですが、こんなまちづくりができる人たちって、どんな方なのだろうか。 田中氏、西村氏お二人とも、人当たりの良さの奥の方に、とんでもない突破力の何かがあると感じました。その突破力のすべてを常に開放するのではなく、うまくコントロールしながら使うことにより、それが人の魅力につながり、たくさんの人たちがその魅力に惹かれ、「ちゃぶだい」という空間を創り上げていると感じました。是非、家族をつれて遊びにいきたいと思います(小沢)

(取材・記事:小沢理市郎(タガヤス代表理事)写真:中村晋也(タガヤス))

田中明裕(たなかあきひろ)氏
株式会社ちゃぶだい 共同代表・一級建築士

主な経歴
大学卒業後、リフォーム会社に就職、大小のリフォーム工事の営業・設計・管理を行った。その後、家具会社、リノベーション会社に勤務。
2014年 ㈱cotoを設立。都内を中心にリノベーション設計・工事を行っている。
2016年 まちづくり会社㈱80%に参画。旧大工町長屋リノベーションをはじめ、空家、空き店舗の再生を行っている。2018年 ちゃぶだいguesthouse,cafe&bar“運営開始

西村拓也(にしむらたくや)氏
株式会社ちゃぶだい 共同代表

主な経歴
1982年生まれ。川越高校卒。
2006年-2016年株式会社ソフトバンク 経営企画
2018年- 株式会社ちゃぶだい / 場づくり、関係デザイン
2022年- 株式会社has / 地域デザイン、空き家活用、メキシコ関連事業
2023年- 株式会社おとなり / クラフトビールの企画販売