目指すは「まちづくりをする不動産屋」。自治会で知り合った仲間とともに魅力ある地域づくり

自治会の活動を機に、地域密着型の不動産会社立ち上げ

──会社を立ち上げられた経緯について教えてください

私は19歳で不動産会社に就職し、分譲住宅の販売や売買・賃貸の仲介など幅広い営業を経験してきました。ただ、お客様の希望をじっくり聞いてそれにふさわしい家を紹介するのではなく、売り上げ目標のために、契約を月末にねじ込むといった進め方に違和感を持っていました。

26歳で結婚。翌年に子供が生まれたので吉川市に一戸建てを購入したところ、いきなり美南1区自治会の班長という役割が回ってきました。自治会の活動は主に日曜日です。不動産業の仕事は休日が忙しく、なかなか時間がとりにくかったのです。とはいえ、家族のためにも近所との付き合いはしっかりしたいと思っていたので、最低でも月1回の会議だけは参加するなど、なんとかやりくりして1年間乗り切りました。

1年後、ようやく私自身の班長の任期満了というタイミングで自治会長が辞めることになり、後任を決める必要が出てきました。当然、皆さん自分の仕事を優先しますので、誰もなり手がいません。そこで、「この1年間で一番出席率が高かった人に自治会長をやってもらおう」と誰かが発言。確認したところ、皆勤賞は私と元会長しかいなかったのです(笑)。そこで、引き下がれなくなり、やむを得ず引き受けることにしました。

実際に自治会長を務めてみると、地元の自治会の仕事だけすればいいというわけではないことがわかりました。吉川市には95の自治会があり、それが4つの地区連合会に分かれていて、その上に吉川市自治連合会という組織があります。つまり、一つの自治会長になると、3つの組織全てに参加することになるのです。そのため多忙を極めました。当時、職場での葛藤があったり、30歳で独立を目指していたことも重なり、自治会長着任の翌年に不動産会社を立ち上げ、独立に踏み切りました。

──自治会の活動は仕事には結びついたのですか?

自身の事業では不動産の売買・仲介を専門にし、狭いエリアでシェアNO.1になろうと社名に吉川美南という地名を入れました。ゼロからのスタートでしたので、紹介を通じてお客様が集まってくるような仕組みにならないか、ということは早くから思案していました。

自治会では、地域を良くするための取り組みや、皆があまりやりたくない面倒なことを引き受けると、地域の人たちから感謝されます。同時に、地域の人たちと顔見知りになれるし、地域の事情にも詳しくなります。そう考えると、地域の活動は不動産の仕事に直結しますよね。まちのための活動を一生懸命することが仕事につながり、地域の人たちからも感謝される、こんなに楽しいことはありません。当初、自治会の活動が直接自分の仕事に結びつくとは考えていませんでしたが、今では「自治会活動は不動産業者が取り組むのが最適だ」と思っています。

「大切なことは自治会で学んだ」と、石井さん

「空き家」について、自治会の枠を超え地域の課題として議論を開始

──自治会の活動はどの地域も続けていくのが厳しいと聞きます。一体どのような課題があるのでしょうか?

吉川市は、川と共に栄えた歴史のある地域です。しかし、三輪野江や旭といった地区は高齢化が進み人口が減っており、小学生も全校で130人位しかいません。一方、JR武蔵野線の吉川美南駅周辺の再開発地域である美南地区は人口が増え、小学生も1,300人を超えます。このように、同じ吉川市内でも地域の状況が全く異なります。

また、自治会自体への加入率が全般に低く、美南地区でも30%台ですので、自治会に入っていない人の方がマジョリティーになっています。自治会の活動としては、お祭りの開催、美化・清掃活動、防犯パトロール、市民体育祭の開催などがあります。自治会に入っていないとお祭りの情報が伝わらないなど、自治会があるがゆえに地域の中で分断が生まれているようなことも感じました。また、外国人との多文化共生の問題や高齢者の買い物などの支援、有事の際の防災など、1つの自治会では解決できない新たな課題も生まれています。

そこで、私が吉川市自治連合会の会長の時に勉強会を立ち上げ、自治会という概念をとっぱらい、地域の課題を地域全体で解決するにはどうすればいいかという議論を始めました。空き家もその課題のひとつでした。

──吉川市では、空き家についてどのような課題が見られるのでしょうか?

市が立ち上げた「吉川市空家等対策協議会」に委員として参加しており、以前、副会長を務めたこともあります。吉川市ではまだ特定空き家は無く、危険空き家が40~50軒あるという状況です。市の職員が所有者を調べて直接訪問し、地道に連絡をとり適正に管理をしてもらっている様子なので、今は大きな問題にはなっていません。それでも三輪野江や旭地区では徐々に空き家が増えています。

実際に私のところにも空き家の高齢の所有者から「(今後)どうしたらいいか?」という相談が入るようになりました。ただ、そういう方の物件は市街化調整区域内が多く、建物の新築や建替えに制限がかかり、活用にするにしても用途が限定されてしまいます。

一方、市街化区域の物件は結構いい値段で売れるので、売却されて更地になり、そこに新しい賃貸アパートが建ってしまいます。どれも同じような外観なので、どこも同じ風景になってしまいます。

ハザードマップをもとに河川周辺の地域の課題について語ってもらった

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