目指すは「まちづくりをする不動産屋」。自治会で知り合った仲間とともに魅力ある地域づくり

風情残る地域の空き家を活用し、音楽がテーマのサードプレイスが実現

──そのような空き家が増えつつある地域で、空き家を利活用した「シモガシハウス」のプロジェクトを立ち上げたのですね。

吉川市は江戸川と中川に囲まれています。昔はこの辺りで採れた早稲米を江戸に運び、江戸から肥料を運ぶことで発展してきました。また、ウナギやナマズ、コイといった川魚料理が有名で、400年も続く料亭が残っていたり、八坂祭りというお祭りが江戸時代から続けられているなど、当時の賑わいがしのばれる地域があります。それが、ここ下河岸も含まれる平沼地区といい、狭い路地が残る風情ある地域です。

あるとき、地域の活動の中で物件を探している女性に出会いました。当初マンションを探していらっしゃいましたが、いろいろ話を聞くと本音では「音楽教室をしたい」とのこと。「それなら一戸建てを改築して防音室を作り、自分の住まいを2階に設けてはどうか」いう提案をしたところ、ちょうどいい空き物件が下河岸に出て、話がトントン拍子に進み始めました。これが、シモガシハウスプロジェクトです。

屋上も利用可能な2階建ての建物を、1階にはピアノが演奏できる音楽ホールとカフェスペース、2階には自宅のほかレンタルスペースを3室設け、楽器の練習やコミュニティスペースとして使えるような、地域の人たちにとって第三の居場所になるようにしました。リノベーションは、100年以上前から残るこの景色を100年先まで残しておきたいという想いから、この地域にお住まいの、企画の趣旨に賛同してくれた設計士や建築家、デザイナーとチームを組んで進めました。

1階には他の場所でカフェを開いていた、私の自治会の仲間に店を移してきてもらいました。以前、「カフェを開くのが夢だ」という相談を受け、アドバイスをしたご縁です。最近では、1階の入り口付近で地元の農家さんが定期的に野菜やお米を売ったり、お花屋さんが花を販売するようになり、ここも地域の人たちが集まる場所になりつつあります。多世代の人が集まり、新たな賑わいがまちの中で生まれているのを実感しています。

シモガシハウスのオーナーと共に
1階の音楽ホール、小さなコンサートを開くには十分な大きさ
カフェは昭和レトロ感が満載
自治会の活動の中で知り合ったカフェのオーナーと
玄関には、地元の農家さんの野菜とお米が販売されていた

路地の雰囲気に合うテナントを誘致。由緒ある建物の活用にも注視

──今後どのようなことをしていきたいですか?

カフェができたので、次は、路地が多いこの地域の雰囲気を活かし、おでん屋さんや駄菓子屋さんを開きたいと思い(笑)、物件を探しています。

また、先日は老朽化が原因で昔からまちの人に愛されていた銭湯が突然解体されました。そのようなことが繰り返されないよう、活かせそうな物件の所有者には「壊す前には連絡をしてください」とお願いしています。

これまで会社がある美南地区中心に、パン屋さんやカフェなどすでに10~15軒程度、この地域にあるといいなと思うテナントを誘致してきました。

先日、自治会の知り合いで家を売りたいという相談があったので行ってみると、前面に用水路が流れ、緑道が通っている素晴らしい立地! そこで、私の好きなカフェを東京都足立区から半ば強引に誘致してしまいました(笑)。このように、あってほしいと思うお店を少しずつ増やし、地域の魅力を高めていきたいと思っています。

──従来の不動産会社とは全く違うイメージの仕事をされていますね

私は自分のことを「まちづくりをする不動産屋」と言っています。そのような考え方をする不動産屋会社が増えて欲しいと願い、埼玉県宅建協会のセミナーなどでも講演しています。やはり、わが社1社だけでは限界があるので、同じような志をもった不動産屋会社とネットワークを組み、全国各地に魅力あるまちをどんどん創っていきたいと思います。そうなれば、一般の人の不動産会社に対する見る目も変わり、人気の職業になると思いますし、活力のある地域が増えれば、日本全体が良くなるのではないでしょうか。

オフィスの一部を私設図書館として地域に開放している。蔵書は3,000冊以上も
事務所の外観の絵は地元の子供たちに自由に書いてもらったという

(撮影:木村輝 文:アキヤジン)

石井亮英氏
1982年福岡県生まれ。19歳で不動産株式会社に入社、営業として分譲住宅の販売や売買・賃貸の仲介など幅広い業務を行う。11年間勤務後、㈱吉川美南不動産を設立。「不動産を通して、美しいまちづくり」をモットーに、不動産業務のほか地域貢献に尽力する。著書「まちづくりをする不動産屋さん」(電子書籍)

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