東武動物公園駅西口から徒歩15分、スーパーやドラッグストアが並ぶエリアの裏手に、真っ白な切妻屋根の平屋が6戸並ぶ。飲食にまつわる個性豊かな4つの店舗とシェアキッチン、あずまやで構成された“セレクト横丁”で、その名も「ROCCO」という。ボロボロの空き家を再生し人が集まる場所に変えたのは、ここ埼玉県宮代町で生まれ育った中村3兄妹だ。家業の建設会社を継いだ長男・英基さん、一級建築士の次男・和基さん、グラフィックデザイナーの長女・幸絵さんに、ROCCOを始めた経緯や地域への想いについてうかがった。
(以下、敬称略)
同じ形をした小さな平屋が並ぶ光景に魅力を感じて
──まずは、中村建設について教えてください
英基:創業は明治20年、私で5代目です。初代から3代目までは大工で、住み込みの大工も数人いて、主に木造住宅の仕事をしていました。父の代からは現場監督として工事管理を学び、公共工事や鉄筋コンクリート造、鉄骨造の仕事もできるようになりました。現在は、住宅や商業施設の設計・施工からリノベーションまで幅広く手掛けています。小さな会社ですが、いまも社員として大工を雇用しているので、木造は得意分野と言えるかもしれません。
──英基さんが会社を継いで、和基さん・幸絵さんは家を出られたのですね
和基:祖父や父から「兄妹で会社を経営すると揉めるから長男以外は出て行け」と言われていたので、何の迷いもなく出ていきました。私も幸絵も東京に自分の事務所を持っていて、普段は別々に働いています。
──そんな皆さんが兄妹でROCCOを始めることになった経緯を教えてください
幸絵:2020年に父が病気になり、看病のため家族で集まる機会が増えたことがきっかけのひとつです。ある日スーパーへ行く途中、同じ形をした小さな空き家が6軒並んでいる光景を見かけて「コピー&ペーストしたみたいでかわいい」と思い、兄たちに「あの場所で何かできたらいいね」と話しました。次兄も気になっていたようで、食事をしながら「あのあたりには夜営業しているお店が少ないから、気軽にお酒が飲めるお店ができたらいいよね」と盛り上がりました。
英基:私は「あのボロボロの物件を?」と最初は全然ピンと来なかったんですが、所有者を調べてみたところ、実は祖父が50年前に建てた物件だと判明したんです。「これもご縁だ」と思い、所有者に相談して買い取ることにしました。
和基:僕たちは酒の席での冗談というか、「こうなったらいいよね」と半分夢を語るようなテンションだったのに、兄は行動が早くてすぐに話をまとめてしまって(笑)。「それぞれ本業もあるのにどうするんだ」と驚きましたが、買ってしまったらもうやるしかないと腹をくくりました。