──「ハコ」「ヒト」「コト」のつながりを重視した「トダピース」を発展させて新たな物件を立ち上げたそうですね
「はねとくも」といいます。一緒に古い物件を改修する中で、連氏が新築アパートを建てるとどういうものができるのかが知りたくて、一施主として建築設計を依頼しました。地主さんから売却依頼を受けた土地を普通に建売会社に仲介すれば5棟の新築住宅が建つところ、うち2棟分を当社で購入し賃貸住宅を建てることにしました。
部屋はアトリエ付き住戸2室とメゾネット住戸が1室、1階には入居者たちのためのコモンスペースを設けました。はねとくもは、アトリエから同じ価値観を持つ人たちがつながって広がりまちに溢れていく、そんな場所にしたいと思いネーミングしました。コモンスペースは不定期にまちに開き、これまでマルシェを開催したり、有名な日本画家の個展なども行い、地域の人たちとの交流の場になっています。
会社と自宅の生活動線上のエリアで、さまざまな取り組み
──このような取組みはまちにどのような変化をもたらしたと感じていますか?
まちの変化がまだよく分からないから投資し続けているところもありますし、儲かるかどうかではなく、会社から自宅までの生活動線上のエリアが楽しくなればいいという気持ちでいます。今、『はねとくも』にはマカロン屋さんとジュエリーのお店が入っています。住宅街の真ん中で全く商売に向かない場所にも関わらず、最近、この建物の並びで自宅の一室を活用してヘッドスパを始めた方がいて、少しまちに波及効果をもたらしたのかもと、ぞくぞくっとしました(笑)。
──実際に、生活動線の中に空き家や空き地を活用していろいろな拠点が生まれつつありますね
はねとくもも自宅近くですし、事務所から半径1km、広くても2kmという小さな経済圏を設定し、その範囲の中にある空き家や空き地を活用し、自分たちの暮らしが豊かで楽しくなるために、そこに面白い「ヒト」を誘致しています。
最初に手掛けた物件は、60年以上近く前に建てられ、空き家となっていた再建築不可の戸建ての平屋です。なけなしのお金で2軒購入し、賃貸住宅と時間貸しのフリースペース(51223HONCHO BASE)に改修しました。モクチンレシピを活用し、改修費用は250万円かかりましたが、元メジャーバンドのギタリスト兼ハウスクリーニング業というユニークな借り手がついたり、人が集まる場所も出来たりしたことで、建物の周りの雰囲気が明るくなり人の流れも変わりました。
また最近、JR戸田公園駅前付近の、30年続いたタバコ屋さんがコロナの影響で閉店するにあたり、その大家さんから今後どのように活用すべきかと相談がありました。駅前なので、普通なら調剤薬局、学習塾や美容室など仕入れ原価の低い業種が入るのでしょう。でも、地域の顔になる場所ですし、“まちの採用担当”の当社としては、一人でも多くの人の関わりしろのあるお店にしたいと思い、タバコ屋さんの負債も含めて借上げました。
そして、地元で頑張っているコーヒー屋さんに一本釣りで声をかけたところ、おにぎり屋さんに興味があると言い、まちの案内所兼おにぎり屋さんとしてオープンすることに。実はこの話には副産物が。当社が店舗と一緒にタバコの販売権も取得したことにより、半径200m以内にタバコを扱うコンビニエンスストアの出店ができなくなり1、このまちの生態系が守れることになりました(笑)。
1 たばこ小売販売業の許可に際しては、既存のたばこ小売店との間に一定の距離があることが必要( 25~300メートルの範囲内で地域に応じて設定)/内閣府
──事務所でアイスクリームを販売しているのも、地域とのつながりを感じますね
お菓子メーカーのフランチャイズのオーナーをしている大家さんからの提案で、3年ほど前から、店頭で2本100円で、アイスキャンディを売り始めました。そうすると学校帰りの小学生が夕方にたくさん立ち寄るようになり、その姿を見て事務所に来る年配の大家さんたちが喜んでくれて、事務所の空気が和むようになりました。売れるほど赤字になりますし、スタッフには手間を取らせていますが、私は「日本一敷居の低い不動産屋」と自称していますので、地域の人たちが楽しんでくれればそれでいいと思っています(笑)。
(撮影:木村輝 文:アキヤジン)
河邉政明 氏
1971年埼玉県戸田市生まれ。平和建設株式会社代表取締役。法学部を卒業後、アパレル業界に就職。1996年から父の経営する平和建設㈱へ入社。東日本大震災を機にホームインスペクターの公認資格を取得し、日本ホームインスペクターズ協会理事に就任。2015年よりNPO法人モクチン企画のパートナーズ会員として協働を開始。